第4回 材料研究会/九州・西日本支部 合同研究会のご案内
1987年に液体窒素沸点温度を越えるTcを持つ初めての超電導物質が
発見されて以来の長い研究開発の成果が結実し、昨年度から長尺の
Y系超電導線材(RE系も含む)が市販されようになりました。現時点
のY系超電導線材にはまだまだ多くの改善点が残されていますが、市
販化されたことによって応用機器の研究は大きく進むことが期待さ
れます。 そこで今回、Y系超電導線材の構造、結晶配向化原理、製
造プロセスなどの基本から最新の研究開発状況、そして長所・短所、
今後の開発方向などについて、講師の先生方に分かりやすく包括的
に講演していただく機会を設けました。Y系超電導線材の研究開発に
携わる方からY系超電導線材を使う方まで、多数のご出席をお待ちし
ております。
テーマ:Y系超電導線材の現状と今後の開発トレンド
日 時:2010年11月30日(火) 14:30〜18:00
場 所:〒890-0065 鹿児島市郡元1−21−40
鹿児島大学産学官連携推進機構 1Fセミナー室
交通案内: 鹿児島大学産学官連携推進機構HP
もしくは鹿児島大学工学部のHPをご覧ください。
参加費(資料代):2,000円(どなたでも自由に参加できます)
プログラム
開会の挨拶 前田敏彦(材料研究会委員長) 14:30〜14:35
1. 高特性IBAD/PLD法線材の量産化と今後の展望
飯島康裕(フジクラ) 14:35〜15:15
2. 機器応用へ向けたこれからのR&D−その課題と問題点-
山田穣(SRL) 15:15〜15:55
休 憩
3. Y系線材用NiめっきCu/SUSテープの開発
窪田秀一(田中貴金属工業) 16:10〜16:50
4. Cu-RABiTS線材の短尺性能と長尺化への展望
土井俊哉(鹿児島大) 16:50〜17:20
5. RE系線材のJcはどこまで高くできるか
吉田隆(名大) 17:20〜18:00
閉 会
オーガナイザー:松本要(九工大)、原田直幸(山口大)
問い合わせ先: 九州工業大学大学院工学研究院 松本要
TEL:093-884-3366 matsu(at)post.matsc.kyutech.ac.jp
山口大学大学院理工学研究科 原田直幸
TEL:0836-85-9476 naoyuki(at)yamaguchi-u.ac.jp
当日の報告
2010年度の第4回材料研究会/九州・西日本支部合同研究会が11月
30日(火)14:30〜18:00,鹿児島大学産学官連携推進機構におい
て開催された。今回のテーマは「Y系超電導線材の現状と今後の開発
トレンド」,参加者総数35名(大学・研究所関係14名,企業関係21
名)であった。
以下に講演内容を記す。
テーマ「Y系超電導線材の現状と今後の開発トレンド」
1. 高特性IBAD/PLD法線材の量産化と今後の展望
飯島康裕(フジクラ)
2. 機器応用へ向けたこれからのR&D−その課題と問題点-
山田穣(SRL)
3. Y系線材用NiめっきCu/SUSテープの開発
窪田秀一(田中貴金属工業)
4. Cu-RABiTS線材の短尺性能と長尺化への展望
土井俊哉(鹿児島大)
5. RE系線材のJcはどこまで高くできるか
吉田隆(名大)
材料研究会委員長の前田敏彦氏(高知工科大)の開会挨拶に続き、
最初にフジクラの飯島康裕氏が講演を行った。Y系超伝導線材の発展
の歴史,国内外の開発状況についてのわかり易いレビューの後,
IBAD技術と中間層の結晶配向メカニズムの解説がなされ,続いて
PLD法によるGdBCO超電導厚膜の形成技術,長尺化技術,均質性,
Ic-B特性,剥離強度,内部応力分布解析結果などの詳細な説明がな
された。そして,フジクラにおけるIBAD/PLD線材の開発の歴史と最
新の線材性能及びマグネット試作結果についての紹介がなされ,近
い将来に6円/Amが達成できるとの事であった。世界のY系超電導線
材開発のトップを走り続けている研究者の講演は示唆に富み,Y系超
電導線材の理解が大いに深まった。
次に、SRLの山田穣氏より機器応用に向けてのY系超電導線材の課
題と問題点について講演があった。Y系線材の国内外の最新データ,
応用機器の大型プロジェクト紹介の後,実用化が期待されている応
用機器の特徴,そして様々な応用機器開発の最新データが紹介され,
現状の課題について詳しい説明が行われた。そして,高温超電導機
器の実用化に向けてのY系超電導線材の開発のあり方,応用機器側か
ら見た重点課題,克服すべき具体的課題がわかり易く説明された。
長年に渡って線材から応用機器まで幅広く研究開発に携わってきた
経験に基づく大変貴重な講演であった。
休憩を挟んだ後,田中貴金属工業の窪田秀一氏から超低コストY系
超電導線材用に開発が進められているNiめっきCu/SUSテープの開発
状況についての講演がなされた。金属テープにおいて結晶配向が得
られるメカニズムから解説が始まり,配向金属テープとしてはCuが
ベストな選択であることが論理的に示された。国内では配向金属基
板法(RABiTS)法でY系超電導線材を製造中のメーカーは無いが,米
国ではAMSC社がNi-W合金テープを用いた線材を販売しており,先般,
3,000kmを韓国LSケーブル社に出荷することを発表して注目を集めた。
窪田氏によれば,NiめっきCu/SUSテープはNi-Wテープより安価でグ
ルーブ問題も無く,また引っ張り強度もSUSと同等の強さであり,全
ての点でNi-Wテープに勝るとのことであった。
続いて鹿児島大の土井俊哉氏より,NiめっきCu/SUSテープ上への
YBCO超電導層作製についての講演があった。試料は短尺であるが,
CeO2/YSZ/CeO2,或いはCeO2/Y2O3/CeO2のどちらのバッファ層構
造を用いても2〜3MA/cm2のJcが安定して得られること,膜厚1 mとし
てもJc>2MA/cm2が維持されること,a軸配向粒が生成せず表面平滑
性も維持されることから更なる厚膜化が可能であることが示された。
また,NiめっきCu/SUSテープ上にGZO人工ピン導入YBCO超電導層が
作製できたことも示され,NiめっきCu/SUSテープを用いたY系超電
導線材に残された課題は長尺化だけであるとのことであった。
名古屋大の吉田隆氏からは広く銅酸化物高温超伝導体全体を俯瞰
した視点から「Jcはどこまで高くできるか」についての講演がなさ
れた。Tl系,Hg系,Cu-1234系などが持つ高いポテンシャルについて
の解説と,薄膜の成長メカニズムとピンニングメカニズムに関する
詳細な解説がなされ,今後のコーティッド線材の研究開発の方向性
が示された。
最後に材料研究会副委員長の淡路智氏が閉会の挨拶を行って散会
となった。研究会後には懇親会が企画され,定員の倍以上の参加者
が夜遅くまで熱心な議論が行われた。
最後に本研究会開催のためにご尽力いただいた関係諸氏に厚くお礼
を申し上げます。
(山口大 原田直幸)