第2回 材料研究会/九州・西日本支部 合同研究会のご案内


 1986年の銅酸化物高温超電導体の発見以来、様々な超電導体が発見され材料開発の努力がなされてきました。中で
もBi系超電導体およびY系超電導体は長い開発期間を経て線材化に成功し、77 K以上で使用可能な超電導線材として
実用化されつつあります。また、最近発見されたMgB2や鉄系超電導体も高いBc2を有することから応用を目指して薄
膜化や線材化の研究が活発に進められています。材料開発における重要なカギは磁束ピンニング制御技術です。その
ためにはJc抑制因子を取り除くと同時に、最適なピンニング機構を明らかにして効果的なピンニング点の導入を行う
必要があります。しかしながら多くの共通点や今後の改善のためのヒントが相互にあるにもかかわらず、異なる材料
のピンニングは共通の場で議論されることが少ないのが現状でした。
 そこで今回、ピンニング研究が進んでいるY系材料を中心に鉄系材料に至るまで、各種材料のピンニング技術の現
状と課題について講師の先生方に分かりやすくレビューしていただき、異方性、対破壊電流、熱ゆらぎ、ピンニング
点制御、等々の共通の概念を交えて磁束ピンニングについて理解を深めるための機会を設けることといたしました。
基礎研究から線材開発・応用分野に携わる研究者・学生の方々まで、多数のご出席をお待ちしております。


テーマ:超電導体における最新の磁束ピンニング技術の現状と今後の展開



日 時: 2011年12月26日(月) 13:30〜17:20
会 場: 九州工業大学 戸畑キャンパス 総合教育棟C-2A講義室 こちらの地図のまる6の建物です。
    〒804-8550 北九州市戸畑区仙水町1-1
交通案内:こちらをご参照下さい。

参加費(資料代):2,000円(どなたでも自由に参加できます)

プログラム

13:30〜13:35 開会の挨拶 前田敏彦 (材料研究会委員長)
13:35〜14:05 1. Y系超電導薄膜における磁束ピンニング機構−ナノロッド・ナノ粒子導入効果:堀井滋 (高知工大)
14:05〜14:35 2. Y系超電導薄膜における磁束ピンニング機構−照射効果・複合効果:末吉哲郎 (熊大))
14:35〜15:05 3. Y系薄膜超電導線材におけるJcの温度・磁場・角度依存性とそのピン止め機構について:井上昌睦 (九大)

休憩

15:20〜15:50 4. Bi系超電導線材・単結晶における磁束ピンニング機構と凝縮エネルギー密度:木内勝 (九工大)
15:50〜16:20 5. MgB2超電導線材および単結晶・バルク材の磁束ピンニング機構とJc制限因子:山本明保 (東大)
16:20〜16:50 6. 鉄系超電導薄膜・単結晶の磁束ピンニング機構とピン止め制御技術の展望:筑本知子 (超工研)
16:50〜17:20 7.(総合討論) 磁束ピンニング技術の課題と今後の展開:司会 松本 要 (九工大)

 閉会

 オーガナイザー:松本要(九工大)、小田部荘司(九工大) 
 問い合わせ先:九州工業大学大学院工学研究院 松本要
        TEL:093-884-3366 
        E-mail: E-mail:matsu(at)post.matsc.kyutech.ac.jp
        九州工業大学大学院情報工学研究院 小田部荘司
        TEL:0948-29-7683
        E-mail: E-mail:otabe(at)cse.kyutech.ac.jp

 

当日の報告



2011年12月26日に九州工業大学戸畑キャンパス総合教育棟C-2A講義
室において、第2回材料研究会/九州・西日本支部合同研究会が行
われた。テーマは「超電導体における最新の磁束ピンニング技術の
現状と今後の展開」であった。参加者は36名であった。研究会の意
図としては、ピンニング研究が進んでいるY系材料を中心に鉄系材料
に至るまで、各種材料のピンニング技術の現状と課題について講師
の先生方に分かりやすくレビューしていただき、異方性、対破壊電
流、熱ゆらぎ、ピンニング点制御、等々の共通の概念を交えて磁束
ピンニングについて理解を深めるということであった。

冒頭に、前田材料研究会委員長より挨拶があった。続いて「Y系超電
導薄膜における磁束ピンニング機構−ナノロッド・ナノ粒子導入効
果」と題して堀井滋先生(高知工大)より講演があった。薄膜に人工
ピンとしてナノロッドを導入することについて、歴史的経緯から説
明があった。そしてナノロッドの密度・形態、臨界温度Tc、ピンニ
ング特性が複雑に絡んでおり、さらにナノロッドの密度・形態がドー
プ量、ナノロッド物質の種類、成膜温度などにより影響されること
から、特に成膜温度に注意して研究を始めたということが説明され
た。実際に、エキシマレーザーとNd/YAGレーザーにより、YとErで試
料作製を試み、マッチング磁界などのピンニング特性を調べたとこ
ろ、成膜温度依存性がY, Erでかなり違うことを見いだした。そして
Y, Erを混ぜた混晶系で薄膜を作り、その特性について調べ議論を行っ
た。

次に「Y系超電導薄膜における磁束ピンニング機構−照射効果・複合
効果」と題して末吉哲郎先生(熊大)から講演があった。最初にな
ぜ照射効果が注目され始めたか歴史的な経緯から説明があり、
Civaleらの先駆的な研究が紹介された。特徴としてナノロッドと異
なり試料作製過程と独立に欠陥導入できることが指摘された。また
重イオン照射の実用性として価格試算をすると2万円/mとなることが
紹介された。最近は重イオン照射を高機能化するために複数の角度
から照射するスプレイや、球状ピンと1次元ピンを同時に入れるよう
な種類を変えた照射を行うハイブリッド効果が注目されている。そ
の結果、最大5方向から入れたスプレイでは臨界電流密度Jcの角度依
存性はほぼフラットになる。ただab方向はあまりあがらないか下が
る傾向もあり、討論が行われた。

続いて「Y系薄膜超電導線材におけるJcの温度・磁場・角度依存性と
そのピン止め機構について」と題して井上昌睦先生(九大)から講
演が行われた。現在はIBAD-PLDで600A×600mができるようになった
ことが冒頭に紹介された。また局所的なJcの統計分布の評価により、
なぜIcが低いかというような議論を行った。またJcの異方性を説明
するために、ランダムポイントピンによるJcの異方性で説明しよう
とするが、あまり合っていないような感じになっており、特にc軸方
向でのJcがうまく説明できていないことが指摘された。さらに、最
近の人工ピンを導入した線材について、BaHfO3導入が報告され、特
徴として、膜厚に対してIcが比例する、低温でもJcの向上が見られ
るなどがあることが紹介された。

休憩をはさんで、「Bi系超電導線材・単結晶における磁束ピンニン
グ機構と凝縮エネルギー密度」と題して木内勝先生(九工大)から
講演があった。最初に、凝縮エネルギー密度の意味やその評価方法
について解説があった。そして様々なドープ状態のBi-2212と
Bi-2223について凝縮エネルギー密度の温度依存性について詳しい紹
介があった。また最近のFe系の評価例も示された。最後に、さらに
Bi-2223の臨界電流密度特性を向上させる方法についていくつかの方
法が紹介された。

続いて「MgB2超電導線材および単結晶・バルク材の磁束ピンニング
機構とJc制限因子」と題して山本明保先生(東大)から講演があっ
た。まずMgB2の特徴が紹介された。ピンニング中心は結晶粒界であ
り、これを細かくすることでJcが向上する。また不純物ドープによ
り劇的に改善される。さらに熱処理温度がかなり効いてくる。そこ
で、結晶粒界を適度に汚す(欠陥を入れる)ことが必要であること
が指摘された。またRowellによるコネクティビティの評価の方法が
説明された。これをさらに進めてパーコレーション理論と絡めて実
際に充填率とコネクティビティを評価し、理論値と比較検討した結
果を示した。コネクティビティを改善する例として、ex-situでの自
己焼結、in-situでのMgB4を使った仕込みが紹介された。今後は粒内
ピンの導入や炭素に代わるドープ材料の探索や、マルチバンドを活
かす方法を考えることが指摘された。

最後の講演として「鉄系超電導薄膜・単結晶の磁束ピンニング機構
とピン止め制御技術の展望」が筑本知子先生(超工研)により行わ
れた。最初にピン止めについての一般的な説明があった。次に鉄系
はギンツブルグ数がRE-123系と同じくらいにあり、そんなには悪く
なくて、将来の実用が期待できることが紹介された。特に作製が容
易なFe-122系が注目されている。次にピーク効果について議論を行っ
た。また巨視的ピン力のスケーリング解析からピン止め中心の推定
を試みた。討論ではピーク効果について議論が行われた。

討論がかなりあり予定の講演時間がかなり予定時間より遅れてしまっ
て17:40ごろから 松本先生の司会による総合討論がはじまり、全体
のまとめが行われた。

研究会の最後に松下九州・西日本副支部長より挨拶があった。

             (九州工業大学 小田部荘司)