低温工学・超電導学会
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九州・西日本支部 2018年度総会・企業セミナー 開催案内
2018年度の九州・西日本支部総会・講演会を下記のように開催いたします。
支部会員各位は是非ご参加下さいますようお願い申し上げます。
なお、支部会員には別途総会開催案内を電子メールにてお送りします。
ご欠席の場合には必ず委任状をご返送下さいますようお願いいたします。
記
日 時: 2018年4月27日(金)
場 所: 電気ビル 本館 地下2階 5号会議室
福岡市中央区渡辺通2丁目1番82号
(1)総会: 14:00〜14:30
1.2017年度事業報告・決算報告について
2.監査報告
3.役員交代
4.2018年度事業計画・予算案について
(2)企業セミナー: 15:00〜17:00
1.沼澤 建則 氏(物質・材料研究機構)
2.小島 孝之 氏(JAXA航空技術部門)
(3)懇親会: 17:30〜20:00
当日の報告
2018年度総会および企業セミナー報告
九州・西日本支部第17回総会を2018年4月27日(金)午後2時より福岡市中央区の電気ビル
本館地下2階会議室5で開催した。冒頭、出席者数と委任状の数より総会が成立していること
が報告された。藤吉孝則支部長の開会の挨拶のあと、議長に鈴木孝至氏を選出した。続いて
議事として、2017年度事業報告、会計報告、ならびに監査報告がなされ、全会一致でこれら
は了承された。続いて、役員の交代について説明があった。藤吉孝則支部長が退任されて、
九州工業大学の小田部荘司氏が新支部長に就任した。また2018年度支部事業計画、2018年
度予算案が諮られ、それぞれ全会一致で承認された。事業計画では、今年度は、若手セミナ
ーが8月に島根大学で行われる予定である。総会後には事業会員15社の紹介があった。最後
に新しく支部長に就任した小田部荘司支部長より閉会の挨拶があった。
総会に引き続き、午後3時より2名の講演者をお呼びして企業セミナーが行われた。司会は九州
大学の岩熊成卓先生で行われた。
最初は「NIMSにおける極低温技術開発」と題して、物質・材料研究機構の沼澤建則氏より講演
があった。
講演冒頭、副題として「よもやま話」「絶滅寸前からの復活?」を考えられていることを紹介
された。大学時代に恩師の橋本巍洲先生にお世話になった紹介があった。橋本先生は 九州大学
におられたが東京工業大学に異動されそのときに沼澤氏は師事した。1988年に金属材料技術研究
所に入所された。またMITに1990年から1年滞在された。強磁場ステーション極低温研究グルー
プにおられてヘリウムの液化などのサポート、そして無冷媒2K冷却システムなどを開発された。
独自にされた研究テーマが4つある。4K気体冷凍機、20K水素液化磁気冷凍、0.1K宇宙用磁気
冷凍、室温磁気冷凍である。ここから磁気冷凍の紹介があった。気体冷凍では膨張と圧縮を使う
が、磁気冷凍では消磁と磁化を用いる。消磁すると吸熱する一方で、磁化すると発熱する。磁気
冷凍は光の速さなので、気体冷凍に比べて速い。「気体冷凍から磁気冷凍の時代」と表現された。
歴史的には1933年にGiauque, MacDougallが磁気冷凍実験に成功した。近代的には1966年
に超電導磁石を使って本格的な磁気冷凍が行われた。また1976年には室温磁気冷凍のデモンストレ
ーションがあった。現代では、ワインクーラーとして2000万円の磁気冷凍の冷蔵庫があるそうだ。
磁気冷凍でどのくらいの事ができるかを、磁気モーメントがつくるエントロピーの話を紹介され
た。実際に、理論的に磁気冷凍は気体冷凍と比べて遜色が無い。さらに大きさがとても小さくでき
るメリットがある。
次に様々な磁気冷凍材料の紹介があった。最近は一次転移材料においてメタ磁性、構造転移が使
われている。
磁気冷凍には磁性体、マグネットと熱スイッチが必要となる。カルノーサイクルでは温度差がと
れないので、蓄冷サイクル(Active Magnetic Refrigerator(AMR)サイクル)が使われて
いる。動作はやや複雑になるが、20K以上から室温まで広く適用することができる。これにはマグ
ネット、磁性体、熱交換流体が必要となる。
実際の例としてまずヘリウム液化磁気冷凍機の紹介があった。世界で初めて磁気冷凍によってヘ
リウムの液化に成功された。ただ問題は超電導パルスマグネットを使用しているために交流損失が
課題になり、実機としては使われなかった。
次に、宇宙用超低温磁気冷凍機をNASAの協力で開発した。100mKを連続に発生させることに成功
した。カルノー効率は90%に達する。これはX腺のエネルギーを検出する素子に利用し、実際にX線
天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)に使われた。
さらに、水素液化磁気冷凍機の紹介があった。液化能力は5.8kg/dayとなり、性能はとても高
かった。
最後に室温磁気冷凍機を手がけた。冷蔵庫や空調、カークーラー、ヒートポンプを対象としていた。
1.2Tをだせる永久磁石をそのまま使うと400万円にもなるので、0.8T程度の低コストな永久磁石を
利用し、運転ができるようにした。実際に4℃を実現した。
磁気冷凍では材料・冷凍サイクル・磁場という3要素のバランスが重要ということを強調された。
磁性蓄冷材料の開発の紹介があった。酸化物の磁性蓄冷材料の開発でGiessen大学のHeiden教
授から酸化物磁性材料を蓄冷材として勧められた。たとえばGM冷凍機では従来は10Kくらいしか冷
却できなかったが、それはHeガスの比熱と鉛の比熱が一致する温度が10Kだったからである。そこ
で性能のいい蓄冷材GAP(GdAlO3)が開発されてかなり最低温度を下げることに成功した。また冷
凍性能が2倍になるという驚くべき結果を得られた。GAPの次の材料としてGOS(Gd2O2S)を発見
してさらに発展があった。
またNEDOのプロジェクトで液体水素を作る冷凍機の開発があり、その紹介があった。その結果、
駆動型磁気冷凍機として初めて水素の液化に成功した。液体水素はFCVからハイブリッドカーのは
やりで一時期すたれたが、現在はまた見直されているそうだ。たとえば冷えていることを考慮した
エクセルギー評価をすると、液体水素は98%にも達することになる。
沼澤氏は2017年3月に定年になって、研究を離れることになったが、あまりにも装置がありすぎ
てまずその管理人として残ることができた。さらに新しい水素プロジェクトの提案があり、研究に
復帰することもできた。現在は2017.12.26に改訂された水素基本戦略がある。これは省庁横断的
に策定された戦略である。これによると水素社会の実現にむけて着実に研究することが定められて
いる。最後に、今後も高効率な水素磁気冷凍機の開発を続けていると説明された。
Q冷凍機の重さはどうか?ブレートンとかと比較して。航空機用に使いたい。
A 小さいので軽くなっていると考えている。実際に宇宙用を作ったこともある。
続いて、2件目の講演は、「航空機の電動化の動向と超電導技術適用の可能性」と題して、JAXA航
空技術部門の小島孝之氏によって行われた。
まず新しい航空機の開発を続けているというJAXA航空技術部門の概要の紹介をされた。200名ほど
で予算は67億円(JAXA全体で1545億円)という規模である。
COP21パリ協定でCO2削減が求められている。その中で航空分野でのCO2排出状況は輸送分野におい
て11%であり、全産業のうちの1~2%程度あり、あまり影響はないように思われる。しかし実際には
飛行機雲の影響があるので5%くらいになると言われている。したがってCO2削減が航空分野でも求め
られている。目標は2050年に2010年の50%減とされている。そこで新規技術(電動)と代替燃料(バ
イオ・水素)が必要である。
ここで代替燃料の紹介があった。大きく分けると、これまでの燃料に混ぜることができるドロップ
イン型と、新たなエンジンを開発しなければならない非ドロップイン型がある。電動モーターは後
者に当たる。長期的には2050年にはバイオ燃料が50%使われるという長期目標がある。バイオ燃
料のデメリットとしては光からの変換効率が太陽光発電の1/10以下であることや、生産するとき
にCO2を作ることなどある。
先ずジェットエンジンの性能動向について説明があった。3つの指標がある。まず熱効率がある。
これは入力のエネルギーに対して、どのくらいシャフトを回転させる運動エネルギーにできたかを
いう。次に推進効率がある。これはシャフトの運動エネルギーが推進動力にどのくらい変換できる
かである。最後に全体効率があり、前述の2つの効率をかけ算した値である。現在は30%であり、
技術革新により40%を目指している。
多発分散化による電動化のメリットについての説明があった。現在はエンジンの大直径化が進み
すぎてもう大きくすることができない。そこで小型化されたエンジンを多数配置するアイディアが
あり、電動化の原動力になっている。
電動化にはAll Electric, Series Hybrid, Parallel Hybridの3種類がある。All
Electricはバッテリーが重いので小型機のみである。Series Hybridは電気モーターだけが
シャフトをまわしている。それに対してParallel Hybridではシャフトを電気と熱機関でまわ
す。多発分散化にはSeries Hybridが望ましい。しかし、現実にはParallel Hybridから
始まるようである。Series Hybridの実際の例としてE-ThrustとE-FAN Xが提案されてい
る。これでも燃費を20%減らせるが、目標にはまだ工夫が必要である。またAll Electricは
小型機でかなりの開発例がある。実際に2026年くらいには実用化されるかも知れない。2017年
に米国耐空性基準が改定されて、小型機用の電動航空機が盛り込まれており、実用化にフェーズ
が移行している。
ここで小島氏の自己紹介があった。もともと水素をつかった極超音速ジェットエンジンの研究
が始まりで、新型の飛行機に関わっている。極超音速ではマッハ5を狙っていた。現在マッハ4ま
でいっている。
JAXAのエミッションフリー航空機の紹介があった。液体水素を燃料にして、燃料電池を使うこ
とにより廃棄物がでない。この中には超電導送電の技術も含まれている。
「水素社会に向けた航空機に関する研究会」を立ち上げて報告書をまとめている。そこでは19
種類の飛行機の場合について到達できる距離で比較を行っている。そして液体水素でハイブリッ
ド発電して超電導モーターにするといいという結果になった。
超電導モーターの課題としてとにかく小さく軽くしないといけない。船舶用の超電導モーター
0.4kW/kgであり、30kW/kgにくらべて2桁も悪い。
最後に、安全対策としてシャフトが折れるバースト対策について説明があった。
Q 極超音速ジェットエンジンのブレークスルーを教えていただきたい。
A 燃費はとても悪い。ブレークスルーは表面温度が1000℃になるので熱変形をいかに抑えるかがある。
Q 極超音速ジェットエンジンに超電導モーターは使えるか?
A 温度が高いのでたぶん無理だと思う。
Q 飛行機に求められるスペックは理想的にはどうか?遅くてもいい場合もあるのではないか。
A 遠く、速くが研究対象となっている。あとコストが問題となる。極超音速では、ファーストクラス
の値段で運用できるとされている。
航空機の利用は20年で2.6倍となり、とても高い。こういう産業はない。超電導では20MWのモー
ターができれば、いいとされている。
参加者総数は32名(講師2名含む)であった。
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