2010年度 若手セミナー・支部研究成果発表会


若手セミナーと支部研究成果発表会を熊本大学にて同時に開催しま
す。若手セミナーは、大学や企業の若手研究者や技術者を対象とし、
低温技術や超電導技術の基礎を理解してもらうことを目的として開
催するものです。超電導材料、線材、各種超電導マグネット、電力
機器への応用技術について基礎的な内容を含めて講義を行って頂く
予定です。この機会に支部会員にかかわらず、多数の若手を含む研
究者・技術者が参加され、この分野での知識や交流を深められ、新
たな視点による研究・技術の展開に寄与することを期待します。

主  催: 低温工学協会 九州・西日本支部
日  程: 2010年9月21日(火)〜 22日(水)
場  所: 熊本大学黒髪南地区キャンパス 
   黒髪総合研究棟2階204多目的会議室 
   〒860-8555 熊本市黒髪2-39-1

プログラムの概略:
9月21日(火) 
13:30〜13:40  開会の挨拶  圓福敬二支部長(九州大学)
13:40〜17:00  支部研究成果発表会(発表公募)
18:00〜21:00  参加研究機関(研究室)紹介を兼ねた懇親会

9月22日(水)
9:30〜12:00  支部研究成果発表会(発表公募)
13:30〜17:00  特別講演(講師による講演会) ※詳細は調整中

定 員: 100 名
参加費: 正会員及び大学院生 4,000円、非会員 7,000円
(テキスト代、懇親会等を含みますが、昼食、宿泊費は含みません。
 同時に低温工学協会への入会申込みをされる方も正会員とみなします。
   開催当日までに支部事務局の銀行口座宛お振り込み下さい。)
申込締切: 2010年9月7日(火)
申込方法:  参加申込書にご記入の上、事務局宛にFAXまたはE-mailにてお送り下さい。
      (申込書に詳しいことは載せてあります。)
問合せ先:  熊本大学大学院 自然科学研究科 情報電気電子工学専攻
        藤吉 孝則
        Tel:096-342-3849 E-mail: fuji(at)cs.kumamoto-u.ac.jp

九州・西日本支部若手セミナー・支部研究成果発表会報告



低温工学協会九州・西日本支部では、大学や企業の若手研究者や技術者を対象として、毎
年、超電導技術や低温工学の基礎を理解していただくことを目的として若手セミナーを開
催しています。第9回目となる今回は、2010年9月21日(水)から9月22日(金)の2日間、
熊本大学黒髪南地区キャンパス黒髪総合研究棟2階204多目的会議室において開催されま
した。支部研究成果発表会では大学院生の最近の研究発表が行われ、若手セミナーとして
講師からの講演があり、参加研究機関(研究室)紹介を兼ねた懇親会も行われました。

初日と二日目の午後前半までは、大学院生の最近の研究発表が行わ
れました。詳しい報告は下記にまとめます。

二日目午後後半は4名の講師による講演をいただきました。

堀井滋先生(高知工科大学)からは「超伝導磁石を用いた超伝導物質の磁場配向〜銅酸化
物系およびニクタイド系物質の場合〜」と題して無冷媒冷凍機付き10T級超伝導マグネッ
トを使用した三軸配向についてお話をしていただきました。結晶面の磁化率の違いによっ
て配向を揃える手法で、磁化容易軸には静磁界をかけ、磁化困難軸には回転磁場をかけて
いくことで配向を揃えます。この磁場配向法によるメリットは、室温で加工をおこなえる。
厚さに依存せずに配向を揃えることができる。形状が自由。基板に依存しない。などの比
較的高い汎用性にあります。磁気異方性のない双晶組織などでは配向を揃えることが難し
いなどの課題はありますが、MgB2での磁場配向には有用であることがわかっており、超
伝導組織の配向における新しい可能性を示唆していただき、今後の進展に期待が高まる講
演内容でした。

土井俊哉先生(鹿児島大学大学院理工学研究科)からは「Y系線材は何故テープ状になった
のか」と題してY系線材に焦点を当て結晶構造から、結晶配向の重要性を説明していただ
き、"何故テープ状に線材を加工しなければいけなかったのか?"ということに関して説明し
ていただきました。基板による配向の仕組みや、現在よく使われているIBAD/PLD法だけ
でなくRABiTS法に対する詳しい説明もしていただき、Y系線材を研究してない学生にも
わかりやすく、またY系線材を研究している学生にも新たな知見が得られる講演内容であ
りました。また現在ある配向金属基板にある磁性がある酸化しやすいなどの問題点をコス
トを抑えつつ解決したNiめっきCu/SUSクラッドテープ基板についてもお話いただきまし
た。

一野祐亮先生(名古屋大学エコトピア化学研究室)からは「コーテッドコンダクターを目
指したPLD法によるRE123超伝導薄膜の作製」と題してRE123系線材の薄膜の作製手法
について詳しく説明していただきました。今回の講演では気相成長手法について詳しく説
明していただき、基板温度や、雰囲気条件が薄膜作成にどのような影響を与えるのかを知
ることができました。 また、現在主流として使われているエキシマレーザーにくらべ低コ
ストプロセスなNd:YAGレーザーについて紹介していただいたり、ナノロッドの作製手法
についてもご紹介していただきました。人口ナノドットを蒸着することによる自己化制御
による人口ピンの数密度の上昇や、一度の薄膜作成で人口ピンの添加量の最適値がわかる
コンビナトリアル-PLDなどの実用性の高い手法についてもご教授いただきました。

最後に淡路智先生(東北大学)から「RE123コート線材におけるJc特性と強磁場マグネッ
トへの適用性」と題した講演をしていただきました。強磁場超伝導マグネットの作製とい
う観点から、RE123系の線材が持つ利点を教えていただきました。Bi系に比べ線材に対し
て大きな応力がかかってもIcがあまり低下せず、c軸に平行に磁界を印加した場合のJc特
性も高さもメリットです。ですがその超伝導マグネットの規模が大きくなり更なる強磁界
を発生するとなるとJcが低いB//cの特性がネックになります。低温になるとB⊥cで効く
Intrinsic Pinが急激に大きくなるために、Jcの異方性は更に大きくなります。
B//cの磁界依存性の向上のためにc軸相関ピンとしてナノロッドを導入した線材が紹介さ
れていました。重イオン照射などに比べて均一な角度にc軸相関ピンが入らないということ
からピン力の異方性が良く改善されています。低温になるとc軸相関ピンの効果が相対的に
小さくなるがそれでもB//cのJcは二倍ほど大きくなりJcの異方性の改善に効果があり、
ナノロッドが強磁場超伝導マグネット作成に有用な線材であることがわかりました。





研究会の様子


懇親会での研究室紹介


懇親会の様子

(九州工業大学 中村 遼太)
支部研究成果発表会報告

1. 宇都 浩史(九州大学)
「コイル状酸化物超伝導並列導体の電流分流特性」
多層ソレノイドコイルにおいて、転位を用いて電流分流比の特性評価を行った。その結
果、層間転位、層内転位を組み合わせることにより、線数以上の層数においては電流分流
比を均一にすることができることがわかった。また、巻き乱れが起きた際も電流分流比に
大きな変化はみられないため、今回考案した転位方法は有効であることが明らかになった。

2. 八尋 達郎(九州大学)
「5T級DI-BSCCO小型コイルの特性評価 (1) -コイルの交流損失」
高磁界HTSマグネットにおいて励減磁時における通電損失の評価を行い、巻線のローカ
ルな交流損失を積算することでコイルの損失を見積もった。その結果、コイルの通電損失
は大磁界振幅領域での外部磁界損失が主要な要素となっていると予測され、この要素ごと
の巻線の外部磁界損失の和とコイルの交流通電損失におおよその一致が見られた。

3. 藤岡 直人(鹿児島大学)
「ポインチングベクトルを用いた超伝導コイルの局所以上の非接触検出」
ポインチングベクトル法を用いて、異常検出領域を分割し、局所的な異常の検出が可能
なことを実証した。この異常検出領域を分割することにより、測定感度の向上、異常発生
場所の特性ができるなどの利点がある。今回提案したシステムは、実験結果により、非接
触で局所異常を検出できる運転監視・診断システムとして有効であることを示した。

4. 小坂 亮大(鹿児島大学)
「ポインチングベクトル法による超伝導トランスの負荷変動時の異常検出」
ポインチングベクトル法を用いた超伝導トランスの運転監視システムの開発を行った。
従来のように一か所の測定では異常と負荷変動を判別できないため、本システムではシス
テムを2つ取り付けてモニタリングすることで異常を検出できるように改善を行った。そ
の結果より、負荷変動時に超伝導トランスで起こる異常を検出できることを実証した。

5. 永田 広大(鹿児島大学)
「極小ピックアップコイル群によるマルチフィラメントHTS模擬線材の電流分布測定」
低損失加工された高温超伝導テープ線材の交流通電時における電流分布を非接触で定量
的に評価できる測定法を確立し、その電流分布特性を評価した。電流分布測定の精度を改
善した結果、Cu試験導体内の電流分布算出制度の向上が図れた。また、マルチフィラメン
トHTS模擬線材のフィラメント毎の電流値を10 %以内の精度で算出できた。

6. 谷川 潤弥(九州工業大学)
「積層した超電導GdBCOコート線材における交流損失の影響」
様々な交流機器に超電導コート線材を応用するにあたって、電流容量の点からコート線
材は束ねて複合導体として使用される。そして交流損失が交流機器の性能を左右するため
重要なパラメータとなり、これを正確に評価する必要があるが、交流損失は複合化すると
きのテープの配置等によって変化する。ここではコスト削減を狙い、特性の劣る線材を含
む3枚のGdBCOコート線材を積層し、テープ面に垂直に磁界を印加したときの磁化損失を
評価した。結果として順序の違いによる交流損失の影響は見られなかった。

7. 中村 遼太(九州工業大学)
「PLD法GdBCO線材の臨界電流特性に与える超電導層厚の厚膜化の影響」
PLD法で作成されたGdBCO線材の超電導層厚を厚膜化が臨界電流特性に与える影響に
ついて調べた。超電導層が厚い試料は低温・低磁界の臨界電流密度が低くなっていた。こ
れは厚膜過程における超伝導層の劣化が原因と考えられる。また、超伝導層厚が厚い試料
はピンポテンシャルが大きくなっており、磁束クリープの影響が小さくなっていることが
わかった。

8. 鯉田 貴也(九州工業大学)
「ナノ粒子を導入したTFA-MOD法YGdBCO線材の磁界印加角度依存性」
TFA-MOD法で作製したYGdBCO線材の磁界印加角度依存性の測定を行った。pureな
YGdBCO試料では自然ピン、人工ピンを導入した試料では、自然ピンとナノ粒子ピンが効
いると考えられる。臨界電流密度の異方性は、pureなYGdBCO試料ではコヒーレンス長、
人工ピンを導入した試料においては磁束バンドル内の磁束線数に起因するということが明
らかとなった。

9. 塩原 敬(九州大学)
「イットリウム系高温超伝導線材の高性能化と電流リードへの適用に関する基礎的研究」
薄膜YBCO線材を用いて、1000 A級の電流リードの作製及び高性能化の研究開発を行っ
た。熱侵入量の理論値を計算し、実測値と比較した所、誤差範囲10 %程度で一致していた。
テープ線材の自己磁場によるIc減衰のシミュレーションの結果、全体の通電電流の割合は
93.8 %となった。

10. 沖田 健佑(熊本大学)
「第三高調波電圧誘導法によるバイクリスタルSTO上YBCO薄膜のJc測定」
SrTiO3バイクリスタル基板上に作製したYBCO薄膜について、第三高調波電圧誘導法に
よる臨界電流密度の測定を行った。その結果、I0-V3に2度の立ち上がりが観測され、粒間
と粒内の臨界電流密度を同時に評価することができた。今後はSrTiO3バイクリスタル基板
の傾斜角を変え、YBCO薄膜を作製し、傾斜角による臨界電流密度の推移について評価を
行う。

11. 寺崎 義朗(佐世保高専)
「液体ヘリウム中でのカーボンナノチューブ生成実験」
放出された炭素原子がある程度のサイズまで、どのくらいの時間で成長するのかを確認
するために分子動力学法を用いてシミュレーションを行った。また、液体ヘリウム中での
放電実験から得られた分光結果と比較した。その結果、分光測定結果と計算結果が一致し、
シミュレーションと実験結果が一致した。

12. 前原 一智(鹿児島大学)
「高温超電導電流トランスを用いた高温超電導大型導体の通電特性測定」
近年、高温超電導大型導体の開発が盛んに行われており、そのための評価装置が必要で
ある。本研究では66 Kでの測定環境の実現ならびに超電導電流トランスとサンプル導体と
の簡便で低抵抗な接続部の実現を行った。導体間に100μm厚のインジウムシートを挿入し
たのち上下からベーク板で挟み、ネジで締め付ける方法を採用することで66 Kでの測定環
境を実現できた。

13. 堤 智章(九州大学)
「REBCO超電導変圧器の過大電流に対する応答特性の検討」
電力の安定的かつ効率的なエネルギー供給システムを実現するため、高効率な送電技術
を確立する必要がある。本研究は、限流機能を有する数100 kVA級単相巻線モデルREBCO
超電導変圧器の設計・製作技術の確立を行った。短絡事故を模擬した突発短絡試験を行い、
限流機能の動作や高速常電導転移現象の発生の確認ができた。また数値解析により通電電
流、線材温度、常電導抵抗を算出することができた。

14. 友田 慎一朗(九州大学)
「500 kW REBCO超電導モータの設計検討  -線材磁場特性の観点からの回転子巻線構造の検討- 」
産業や大型自動車に応用できる超電導モータの高効率や小型・軽量化が必要不可欠であ
る。また、応力に強くて低交流損失であるREBCO線材を用いた500 kW  1800 rpm回転界
磁伝導同期モータの磁場・熱特性をした設計を行った。臨界電流の非線形な磁場強度や角
度依存を考慮した結果、ターン数の異なるダブルパンケーキコイルを積層した傘型コイル
がギャップの半径方向磁束密度を最大とする界磁巻線断面形状であることがわかった。ま
た、線材磁場特性・コイル形状・コイル位置を考慮しギャップの半径方向磁束密度を最大
としうる解を求めることができた。

15. 林 卓矢(九州大学)
「REBCO超電導テープ線材の交流損失特性(4) -フィラメント分割した人工ピン入りGdBCO超電導テープ線材」
これまでの研究で人工ピンを導入することで磁場中の電流密度の向上と、線材の細線加
工による低損失化が確認されている。本研究は人工ピンが導入されている線材に細線加工
し、その2つの技術の両立性を検証した。測定は鞍型ピックアップコイル法を用い、35 K-77
Kの温度で行った。また、積層枚数は3枚、印加磁界の最大振幅は4 Tで、試料幅広面に対
して90 度に印加した。細線加工による交流損失の低減と、人工ピンによるIc の磁界依存性
の向上の2つが確認でき、2つの両立性があることが分かった。

16. ムン・テジュン(鹿児島大学)
「素線間絶縁ありMgB¬2並列導体で巻線したコイルの交流損失」
素線間絶縁ありMgB¬2導体を使用したコイルの交流損失特性を測定した。測定では100 A
の直流バイアス電流を通電した状態で交流通電を行った。その結果、1〜4 Hzの領域では、
損失の周波数依存性は見られなく、通電電流の2.5乗に比例した損失が支配的であることが
明らかとなった。また、4 Hz以上の領域では、周波数に比例した損失が観測された。

17. 米倉 健志(熊本大学)
「Alテープ基板上にEBE法で作製したMgB¬2薄膜の輸送特性」
Alテープ基板上にMgB¬2薄膜を作製し、臨界電流密度の磁場依存性や磁場角度依存性
を測定し、磁束ピンニングを評価した。また、以前に同様の方法で作製した異なる基板の
MgB¬2薄膜とピンニング特性を比較した。その結果、低磁場下ではAl基板の薄膜は他に比
べ高い臨界電流密度を示した。また、全試料で結晶粒界によるピンニングを確認した。さ
らにAl基板での比較で、AL-T15はピン力密度が大きいが、Al-T16は結晶粒界と異なり、
より高磁場で有効なピンニングセンターを有していることが分かった。

18. 南 潤(九州工業大学)
「遺伝的アルゴリズムを用いた磁束クリープ・フローモデルのパラメータ解析」
遺伝的アルゴリズムを用いて磁束クリープ・フローモデルの計算に必要なピンニング
パラメータの決定を行った。その結果、SQUIDによる電流-電界特性の測定値と遺伝的アル
ゴリズムの解析結果がほぼ一致する結果が得られた。