2012年度 若手セミナー・支部研究成果発表会のご案内
「低温物性・超電導特性の測定法」
本セミナーは、大学や企業の若手研究者や技術者を対象とし、低温
工学や超電導技術の基礎を理解してもらうことを目的として開催す
るものです。
九州・西日本支部では他の研究機関では行われていない様々な測定
方法が開発され、実際に研究に用いられてきています。今回のテー
マは「測定法」としました。2007年度に北九州市で行われた若手セ
ミナーも同じテーマで行いました。それから5年が経っているので、
測定法として進歩したところもかなりあるでしょう。またこれらの
測定により新しい知見が得られたことも多くあります。一方で、他
の研究機関の測定方法は普段の学会などではよく聞くものの、いっ
たいどのように解釈していいのかよく分からないものもあります。
今回は、講師の先生からさまざまな測定方法についてご紹介いただ
き、どのように利用され、どのような情報が得られるのかというこ
とを解説していただきます。併せて、支部研究成果発表会として、
参加学生からは最近の研究成果を発表していただきます。
この機会に支部会員にかかわらず、多数の若手を含む研究者・技術
者が参加され、この分野での知識や交流を深められることを期待し
ます。
主 催: 低温工学・超電導学会 九州・西日本支部
日 時: 2012年9月17日(月) 13:00 〜 19日(水)12:00
場 所:九州地区九重共同研修所
〒879-4912 大分県玖珠郡九重町湯坪字八丁原600-1
TEL: 0973-79-2617
内 容: 支部研究成果発表会
各研究機関からの自己紹介、交流会
講師による測定法に関する講演
松下照男(九州工業大学) 測定の国際標準化
波多聰(九州大学) 超伝導材料の電子顕微鏡観察
岩熊成卓(九州大学) ピックアップコイルによる超伝導線材・導体の磁化・交流損失測定
井上昌睦(九州大学) 臨界電流特性評価(1):四端子法
東川甲平(九州大学) 臨界電流特性評価(2):磁気的手法
川越明史(鹿児島大学) ポインチングベクトル法
宮城大輔(東北大学) 交流通電損失測定
(東北・北海道支部との交流による)
Minwon Park(Changwon National Univ.)Current R&D status of HTS power devices in Korea
見学会(九州電力 八丁原 地熱発電所)
など
定 員: 40名
参 加 費: 正会員16,000円、非会員 20,000円
(テキスト代、宿泊費、食事代、懇親会費等を含みます。
同時に学会入会申込みの方も正会員とみなします
開催当日までに支部事務局の銀行口座宛お振り込み下さい。)
参加費振込先:
福岡銀行 黒門(くろもん)支店(店番215)口座番号: 普通 1612494
口座名義:低温工学・超電導学会九州西日本支部事務局 会計幹事 木須隆暢(きすたかのぶ)
注 意:宿泊は大部屋になります。
交通の便のいいところでは無いので、十分に準備されてください。
なお、研究成果発表を申し込まれる方は、予稿を9月7日までに提出
お願いします。様式は低温工学・超電導学会に準じますが、A4で
1ページであれば問題ないです。
申込締切: 2012年8月31日(金)但し、定員に達し次第締め切ります。
申込方法: 参加申込書にご記入の上、下記事務局宛にお送り下さい 。
低温工学・超電導学会 九州・西日本支部 事務局
(九州大学 木須研究室内)
Tel:092-802-3678 Fax:092-802-3677
E-mail:jcryo_qw(at)sc.kyushu-u.ac.jp
問合せ先: 2012年度 九州・西日本支部 若手セミナー 世話人
九州工業大学 大学院情報工学研究院 小田部荘司
Tel:0948-29-7683 E-mail: otabe(at)cse.kyutech.ac.jp
九州・西日本支部 若手セミナー・支部研究成果発表会 報告
2012年9月17日から19日にかけて九州・西日本支部では2012年度 若手セミナー・支部研究成果発表会を
おこなった。今回は合宿形式にするために、場所は大分県九重町にある九州地区国立大学九重共同研修所
で行った。九重は標高が1100m程度で、気温は平地よりも低く通常すがすがしい天候である。
ただ九州・西日本支部で若手セミナーや超電導ワークショップを行うと、かなりの確率で台風の影響を
受けており、今回もそのジンクス通りに台風16号が初日の午前中に再接近して心配した。結果的には特に
大きな混乱もなく、初日の夕方には予定していた参加者全員が無事に集まることができ、その後は台風
一過の一層涼しい秋の天候を楽しむことができた。
若手セミナーとしては海外からの講演者を含む8名の講師に「低温物性・超電導特性の測定法」という
テーマの元で講演をいただいた。2007年度にも北九州市で行われた若手セミナーで測定法をテーマに行った
ことがあり、今回も九州・西日本支部で行われている測定法などを交えて講演をいただいた。
また支部研究成果発表会では博士前期課程1年生のメンバーを中心に15件の発表が行われた。材料作製、
材料観察、材料特性測定、応用機器など発表は広範囲にわたっていた。発表する学生は口頭発表の練習になり、
またいつもよりも若干つっこんだ質問が飛び交い活発な発表会になった。また聞き手も普段より情報が多く、
ためになったという声が聞かれた。これらの内容については後述する。
今回は久しぶりに合宿形式になったので、夕食の後の懇親会は大学、研究室を超えて普段は聞くことができ
ない話をじっくりとして楽しむことができた。先生方も夜遅くまで学生とつきあって楽しんだ。都市型の若手
セミナーではどうしてもホテルで宿泊しているので大学、研究室を超えての交流ができにくいが、その点では
大成功であった。数年に一度はこのようにあえて辺鄙なところで合宿をするのもいいかという感想を持った。
3日目には九州電力八丁原地熱発電所に見学に行った。再生可能エネルギーがかつてないほど注目されている
現在、日本一の規模を誇る発電所見学は大変興味深かった。また30年以上にわたる実績を誇り、運転に大変誇り
と自信を持っておられる感じがした。
学生参加者22名、教員参加者12名(講師8名を含む)の合計34名が参加した。
参加者、講師の先生方には台風の中、公共交通機関ではアクセスしにくい場所に来ていただき、大変感謝を
しております。この場をお借りして御礼を申し上げます。
九州地区国立大学九重共同研修所
九州電力八丁原地熱発電所
講演内容の概要
九州工業大学の松下照男先生からは「測定の国際標準化」という題で講演をいただいた。先生は長くIEC/TC90で
さまざまな超伝導の測定に関する国際標準化で努力をされており、普段は聞くことのできない工業計測の話題を
聞くことができた。
九州大学の井上昌睦先生からは臨界電流特性評価の基礎中の基礎である、四端子法について講演をいただいた。
普段から行われている四端子法の測定が、実にさまざまな工夫が行われていることを、改めて確認することができた。
つづいて九州大学の東川甲平先生から同じく臨界電流特性評価の方法として重要な磁気的手法について、SQUID
磁力計による測定と、磁気顕微鏡によるものと2つを紹介していただいた。測定原理から解説があり、ひじょうに
分かりやすかった。
毎年、東北・北海道支部からゲスト講師を招いているが、今年は東北大学の宮城大輔先生をお呼びして交流通電損失
測定について講演をいただいた。宮城先生はかつて横浜国立大学の塚本修巳先生のグループで活躍されており、
特にスパイラルループ法を用いたさまざまな交流通電損失測定について詳細に解説いただいた。
鹿児島大学の川越明史先生にはポインチングベクトル法について講演をいただいた。ポインチングベクトル法は
鹿児島大学の住吉先生、川畑先生、川越先生が独自に開発し発展させてきた非接触非破壊で交流損失を測定できる
手法である。空間分解することもでき、得られる情報も他の測定と較べて独特であり、ますます発展が期待される。
九州大学の岩熊成卓先生からは「ピックアップコイルによる超伝導線材・導体の磁化・交流損失測定」と題して講演
をいただいた。低温超伝導体では比熱があまりに小さく、安定性と大電流容量を兼ね備えた導体を作ることがひじょうに
困難であり、高温超伝導が必要となる事が説明され、交流損失を測定する方法としてピックアップ法をどのように
開発していったのかということを詳細に語られた。
韓国のChangwon National Univ.のMinwon Park先生からは「Current R&D status of HTS power devices in Korea」
と題して講演をいただいた。講演は流ちょうな日本語で行われ、世界での高温超伝導体を利用した機器の発展と現在
の様子、また韓国の様子をレビューしていただいた。先生のところでは電力ケーブル、風力発電機、DCリアクターを
取り扱って研究をされており、それぞれのプロジェクトが成功すること期待している。
九州大学の波多聰先生には「超伝導材料の電子顕微鏡観察」と題して、電子顕微鏡の原理から始まって何を観ること
ができるのか何が分かるのかということを講演していただいた。冒頭に試料作製、観察、特性評価の3つが協力する
ことが重要で、ただ観るだけでは不十分であることが強調された。5年前の若手セミナーの時にも講演いただいたが、
この5年でまた観察技術がすすんでいることにも大変驚かされた。
(九州工業大学 小田部荘司)
支部研究成果発表会内容
G-1: 梶原 貴人(九州大学 中島・波多研究室)
「レーザー走査熱電顕微鏡と透過電子顕微鏡を併用したSmBCO線材の局所微細構造解析」
Evaporation using Drum in Dual Chamber(EDDC)法を用いて成膜したSmBCO薄膜についてLSTEMを用いてSmBCO
表面のゼーベック電圧を測定し、電圧の変動が見られた点のマイクロサンプルを作製し、その断面組織観察を行って
いた。その結果、超伝導特性を低下している可能性のある局所的なCuO2面の乱れが観測された。
G-2: 田邉 賢次郎(九州工業大学 小田部・木内研究室)
「REBCOコート線材の縦磁界下における自己磁界が臨界電流に与える影響」
REBCOコート線材の周りに通電用のテープ線材を配置し、測定する線材の自己磁界の打ち消しを試み、臨界電流密度に
どのような影響を与えるかを調べていた。線材に対して垂直な方向の磁界を打ち消すことでJcが向上することがわかった。
G-4: 造隼 拓朗(九州大学 圓福研究室)
「MPI用交流磁場計測システムの構築」
交流磁場計測システムを、信号を増幅されるプリアンプを用いて作製し、磁気微粒子からの磁界の2次元マップを計測
していた。この検出システムにより、現在のシステムの計測位置の限界である50mmより長い、70mm離れた位置での信号
検出が可能となった。またプリアンプを、SQUIDを用いたシステムに変更することで感度がよりよくなることが期待で
きる結果が得られた。
G-5: 片野坂 祐太(九州大学 船木・岩熊研究室)
「6.9kV-400kVA REBCO超電導変圧器の限流特性」
超電導線材に銅線を併設し、20MVA級超伝導変圧器を想定した突発短絡試験を行っていた。銅線を併設した線材は短絡
電流に耐え、かつ短時間で常電導状態となるような限流機能を発揮できることが分かった。
G-6: 福田 幸弘(九州大学 船木・岩熊研究室)
「Y系超伝導変圧器の交流損失特性の評価」
Y系超伝導を用いた超伝導変圧器を作製し、その交流損失特性を、鞍型ピックアップコイルを用いて測定していた。測定
した交流損失の値は短尺線材の交流損失測定値と磁場解析ソフトから見積もった計算値と非常によく一致する結果となった。
G-7: 坂川 涼(九州大学 船木・岩熊研究室)
「2層にわたる超伝導2本転移並列導体の交流損失特性」
転移並列導体を用いたコイルの転移位置がずれた場合を想定した交流損失特性について調査を行っていた。外部磁界振幅が
大きくなるにつれ交流振幅は大きくなり、転移位置が左右対称の場合に最も交流損失が小さくなることが分かった。
G-8: 笠原 慎平(熊本大学 藤吉研究室)
「重イオンを照射したYBCO薄膜の磁場中臨界電流密度の第三高調波電圧誘導法による非接触非破壊評価」
YBCO薄膜の半面に重イオンを照射して試料内の臨界電流密度が不均一な試料を作製し、その特性を第三高調波誘導法により
評価していた。照射前後で臨界電流密度の変化が検出され、第三高調波誘導法による評価の有効性が実証された。
G-9: 戸木田 裕貴(熊本大学 藤吉研究室)
「PLD法で作製したBaMO3/YBa2CuO3Oy(M=Zr,Sn),Y2O3/YBa2Cu3Oy超伝導疑似多層膜の輸送特性」
PLD法を用いてYBa2Cu3Oyと人工ピン物質の疑似多層膜をさまざまな条件下で作製し、表面構造の解析、四端子法による臨界
電流密度測定を行っていた。その結果、成膜温度が高いほど自乗平均粗さは減少することがわかったが、薄膜の完成度は
まだまだ低いという報告だった。
G-10: 大田黒 賢也(九州大学 金子・寺西研究室)
「溶液法によりBaZrO3を導入したYBa2Cu3Oy薄膜の生成過程」
有機金属塩堆積法を用いてBZOを導入したYBa2CuOyを成膜し、X-ray Diffraction(XRD)を用いて結晶性を評価していた。
成膜時に600℃で温度保持をするとBZOのピーク強度が強まり、保持後の昇温速度を25℃/minに上げることでよりc軸に起因
するピーク強度が増加する結果となった。
G-11: 井上 剣太(九州大学 金子・寺西研究室)
「パルスレーザー蒸着法によるGdBa2Cu3Oy超伝導薄膜の結晶配向への影響因子」
パルスレーザー蒸着法を用いてGdBa2Cu3Oyを作製する際の酸素圧力、基板温度を変更し、それぞれの条件下における薄膜
の結晶配向性について調査していた。その結果GdBCOのc軸配向性は基板温度に、面内配向は酸素圧力に依存していることが
分かった。
G-12: 柿山 昂佑(鹿児島大学 住吉・川越研究室)
「ピックアップコイル対による高温超電導コイルの非接触型異常測定と診断」
ピックアップコイルを用いて超電導コイル周辺の局所的な電界、磁界を測定し、コイルに発生する異常の検出を行っていた。
用いた方法により、異常の起きた箇所を特定でき、エネルギーフローとコイルの巻き線状態の関係を明らかにしていた。
G-13: 古川 匡玄(鹿児島大学 住吉・川越研究室)
「ポインチングベクトル法を用いたソレノイドコイル形状HTS線材の交流損失測定 ?斜め磁界印加磁の測定装置開発?」
ピックアップコイルを用いて局所的な電界、磁界を測定し、それらの外積であるポインチングベクトルの総和から交流損失を
測定していた。斜め磁界を発生するような複合型マグネットを作製し、設計通りの磁界が発生していることが確認できていた。
G-14: 雁木 卓(九州大学 木須研究室)
「磁気モーメントベクトル測定によるGdBCO線材の臨界電流密度角度依存性評価」
BaHfO3を添加したGdBCO線材を、SQUIDを用いた磁化率計で測定し、試料を回転させて縦、横方向の磁気モーメントから臨界
電流密度を求めていた。測定した結果は四端子法で測定した結果とよく一致しており、臨界電流密度の角度依存性を非破壊、
非接触で評価する手法として有用であるとの報告だった。
G-15 山本 篤史(九州大学 木須研究室)
「RE-123細線加工線材のリール式磁気顕微鏡による局所臨界電流特性の非破壊評価」
線材2mm幅に細線加工されたGdBCO線材をリール式搬送装置により一定速度で動かし、ホール素子を高速で往復走査することで
表面の磁界分布を測定していた。測定した磁界分布からは面内均一性に関する情報が取得できており、また求めた臨界電流密度
は四端子法で測定した結果とよく一致していた。この評価法を用いることで細線加工品質の評価が可能となるとの報告だった。