2014年度 若手セミナー・支部研究成果発表会のご案内


「超電導技術の応用」


本セミナーは、大学や企業の若手研究者や技術者を対象とし、低温
工学や超電導技術の基礎を理解してもらうことを目的として開催す
るものです。

 本セミナーは,大学や企業の若手研究者や技術者を対象として,
超電導関連技術の基礎を理解してもらうことを目的として毎年開催
するものです。
 九州・西日本支部において,超電導材料そのものから応用技術ま
で幅広く研究開発が行われていることを踏まえ,今回は超電導技術
の応用に焦点を当てたセミナーを開催することにいたしました。
 高温超電導体の発見後27年あまりを経て,高温超電導線材の飛躍
的な性能向上とともに商用生産も開始されて,比較的容易に長尺線
材が入手出来るようになっています。また,金属系材料においても,
さらなる性能向上が実現され,それらの応用機器の開発が加速してい
ます。今回のセミナーでは,これ
らの各種超電導応用技術につ
いて分かりやすく解説していただく予定です。また,併せて,支部
研究成果発表会として,参加学生からは最近の研究成果を発表して
頂きます。この機会に支部会員にかかわらず,多数の若手を含む研
究者・技術者が参加され,この分野での知識
や交流を深められ
ることを期待しております。


                   記


当日の報告


2014年度九州・西日本支部若手セミナー・支部研究成果発表会が,2014年9月24日~ 25日に熊本大学黒髪南地区キャンパス黒髪総合研究棟にて開催されました。今回の若手セミナーでは,「超電導技術の応用」をテーマとして5件の講義と,併せて11件の学生による研究成果発表があった。参加者は,講師5名を含む45名であった。

1日目は,和久田毅氏(日立製作所)により「高精度磁場応用―NMR, MRI用超電導磁石」と題して講義いただいた。NMR,MRI開発の現状と動作原理や新方式NMR磁石の開発の例などを解説していただいた。また,MRIにおいて生体内の分子の分布を画像化する技術やNMRにおいて物質内の核種や官能基の同定,スピンカップル情報から物質の分子構造や立体構造を解析する技術について説明していただいた。新方式NMR磁石についてはクライオスタット構造,低温プローブ,超電導コイルの配置,シールドコイル,クエンチ保護回路,新方式シム構成,磁場マッピング,均一磁場磁石の設計について,解説していただいた。続いて,岩熊成卓先生(九州大学)により「超電導の機器応用―変圧器,回転機等」と題して講義いただいた。当初行われていた金属系超電導体を用いた低温超電導電力機器開発では,クエンチ防止や低交流損失化の困難さについて説明していただき,酸化物超電導線材では,フィラメント分割や転位並列導体によって低磁化・低交流損失化,大電流容量化が可能となったことついて解説していただきました。現在開発中の超電導変圧器では工場スケールでの実用化が可能であり,超電導回転機においては実用化に向けた方向性は見えているため,今後更なる検証が必要な段階であることを講義いただきました。

続いて,畳谷和晃氏(住友電工)により「超電導電力ケーブルの開発」と題して講義いただきました。超電導ケーブルは将来的な高密度送電ケーブルのニーズに対して期待されており,コンパクト,大容量,低損失,変電所の省略といったメリットについて説明いただきました。今後の課題は,超電導ケーブルの長期安定性,信頼性の評価や,冷却システムの保守管理技術の検討があり,実際に電力系統に連系した実証試験の必要などを解説いただきました。

2日目には,福本祐介氏(鉄道総合技術研究所)より「鉄道用超電導ケーブルの研究開発」と題して,講義いただきました。日本の鉄道は1500Vと低圧のため高い電流値が必要となり,高電流密度である超電導と相性がよいこと,電化区間において直流電化の割合が高いことなどの理由により直流電化区間への超電導線材の応用を目指した研究開発について説明いただきました。DI-BISCCO超電導線材を利用することにより,8kA超の超電導ケーブルを製作して,この超電導ケーブルを使用し超電導き電ケーブルを開発し,さらに構内試験線を用いた実証実験の結果について解説いただきました。世界初の超電導ケーブルによる30m級の電車の走行試験に成功し,さらに300メートル級超電導ケーブルによる車両走行試験の結果,不具合なく運用できていることを説明いただきました。

続いて,三戸利行先生(核融合科学研究所)により「核融合と超電導」と題して講義いただきました。核融合研究の必要性,核融合炉の実現に不可欠な超電導技術,核融合研究の将来への展望について講話いただきました。核融合炉の実現にあたって,磁場による高温プラズマの閉じ込めが必要になり,磁場閉じ込めの方式としてコイルそのものを捻るヘリカル型,プラズマに電流を流すトカマク型を紹介していただきました。両方式共に大型試験装置がすでに作製され,試験が行われており,現在はその次のステップにあたる実験炉で実験が行われていることや克服すべき課題について解説いただきました。


2日目午後より支部研究成果発表会として11件の学生からの発表があった。

1. 河原典史(九州大学大学院)は,転位を施した並列導体について,電流リードとの接触抵抗と,磁束フロー抵抗を考慮して電流分布の数値解析を行い,n値や臨界電流密度Jcが電流分流特性に与える影響について調べた。解析の結果,高周波領域ではインダクタンス成分により電流分流が均一化されるが,低周波領域では電流が均一に流れないことを確認した。

2. 槻木優樹(九州大学大学院)は,実際の酸化物超電導線材の通電特性を模擬してn値を採用し,転位並列導体をコイルに巻いた場合の付加的交流損失の解析を行った。解析の結果,n = 3,5,10,30,50としたところn値が小さいほど磁場増加時では付加的交流損失は大きくなり,磁場一定時では付加的交流損失の減衰が早いことを示した。

3. 大隈翔梧(九州工業大学大学院)は,RE系コート線材に重イオン照射でマッチング磁場0.5T,1.0Tとなるよう円柱状ピンを導入し,垂直磁場及び縦磁場のJcを測定した。縦磁界下では,大きなJcが得られるため,過剰なピンの導入は電流の流れを乱す可能性があることを示した。

4. 浦口雄世(熊本大学大学院)は,GdBCOコート線材に対してc軸方向及び,c軸方向に対して0°,±45°方向に連続な柱状欠陥と不連続な柱状欠陥を導入して,超電導特性の測定を行った。不連続な柱状欠陥の導入により連続な柱状欠陥以上のJcの向上が見られた。また,照射方向の分散により幅広い磁場角度範囲でのJcの向上に寄与することを明らかにした。

5. 甲斐隆史 (熊本大学大学院)は,GdBCOコート線材に対して1次元ピンをc軸方向に対して0°,±30°,±60°,±75°で交差状に導入し,導入角度の違いによる磁束ピンニング特性の影響を調べた。±30°の試料はスプレイ効果によるc軸方向にJcのピークが見られた。一方,±60°の試料はab面方向において3つのディップが生じることを示した。

6. 桑原遼 (熊本大学大学院)は,Bi,Pb2223薄膜においてアニール温度及び重イオン照射による効果を調べた。アニール温度を上げるにつれ,臨界温度は高くなるが,840°C以上の温度では膜表面に劣化が見られた。重イオン照射を行った試料については,柱状欠陥を導入したc軸方向でJcの向上が見られなかったことから,導入された柱状欠陥における相関ピンの働き弱いことを示した。

7.冨永大互(熊本大学大学院)は,PLD法によりBaZrO3(BZO),BaHfO3(BHO)をドープしたYBCO薄膜を作製し,ドープ量の違いによる超電導特性への影響を調べた。結果より, BZO1.20vol.%をドープした試料が全磁場方向でpureYBCO試料よりも高いJcを取ることを確認した。

8. 利光直也 (熊本大学大学院)は,YBCOターゲット表面にBaHfO3およびY2O3矩形バルクをつけることによりピンの導入量を制御したPLD-YBCO薄膜の超電導特性を調べた。今回は導入量が少なくJcの磁場角度依存性において際立った変化が得られず,今後はピンの導入量を増やす必要性を示した。

9. 増田嘉道(九州工業大学大学院)は,電界-電流密度特性を求めるために,メッシュ法を用いて磁束クリープ・フローモデルを用いた自動解析を行うと同時に,磁束バンドル中の磁束線の数について考察して,手動で計算を行うよりも高い精度でパラメータの推定ができることを示した。

10. 上津原大(九州大学大学院)は,リール式走査型ホール素子顕微鏡(RTR-SHPM)に磁場印加機構を導入することにより,RE-123線材の磁場中Jcの面内分布の評価を試みた。本手法は人工ピン導入線材の評価において,人工ピン導入状況の長尺線空間均一性の評価に大きな力を発揮することを示した。

11. 今戸幸祐(九州大学大学院)は,走査型ホール素子顕微鏡を用いて,高温超電導線材の自己磁場がJc分布に与える影響を明らかにして,有限要素法に基づく電磁場解析コードにより,並列導体の電流容量に与える素線相互作用について評価した。自己磁場の効果により線材内のJc分布が敏感に変化する様子を実験的に初めて明らかにした。

なお,1日目の講義終了後は会場を移して,参加者(グループ)の研究室紹介を行いながら懇親会を開催しました。学生たちをはじめ参加者で懇親会は大いに盛り上がり,楽しい時間を過ごしました。
今回の若手セミナーでは,若干のアクシデントがありましたが,超電導技術の応用に関して幅広い分野の知識を得ることができ,参加者にとって有意義な会となりました。

講師の先生方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。


セミナーの様子1
セミナーの様子2